これがほんとのギロチン

嘘日記
ある時俺が京浜工業地帯の神奈川と東京の中間地点あたりの河原を歩いていたら、突然草むらから一人の男が飛び出してきた。男は両手に巨大な植木鋏を持ち、腰に巻いたベルトに様々な道具をぶらさげ、目を血走らせて口から泡を吹いていた。どう考えてもまともじゃない。男は言った。
「このホモ野郎!お前のくさったチンポをこの鋏で切り落としてやる!」
「冗談はよせ!人をホモ呼ばわりしてあまつさえチンポを切り落とすだと?バカも休み休み言え!」
「言い逃れしようったってそうはいかねえ・・・俺は昔、夜中に道を歩いていたらクソがしたくなって、我慢できなくて近くの公園の便所に駆け込もうとしたら、一人の男が『君、クソがもれそうなのか?ちょうどいい。私が君のケツに栓をしてあげよう』と言って近寄って来やがった。おれはそれじゃ根本的な解決にならないからと断ったのだが、男は俺を無理矢理押さえつけてズボンを引き下ろすとケツにチンポをねじこみやがったんだよ。ショックでクソが逆流して俺は大腸炎になり、生死の境をさまよった。それ以来俺は日本中のホモ野郎のチンポを切り落としてやると心に誓ったんだ!その第一歩がおまえだ!」
「そりゃあんた勝手だが俺はホモじゃないし。第一歩が間違ってると今後全てが間違った方向に行く危険があるぞ。考え直せ。ちゃんと確かめろ」
「言い逃れはきかねえって言ってるだろ!てめえの体からホモの匂いがプンプンするんだよ!匂いというかオーラか。ホモのオーラが」
「それは多分このところホモに関わることが多かったから、ホモのオーラがうつったんじゃないか。いいか俺はホモじゃないんだ。むしろ立場的にはあんたの立場に近い。幸い俺はケツにぶちこまれるところまではいってはいないが」
「うまいこと言って人を言いくるめようってんじゃねえ!この鋏は、これから数知れぬホモのチンポの血を吸うことになる鋏だ。貴様はその第一号となるのだ。光栄に思え。そして、この鋏でチンポを切り落とした後は・・・」
男は腰に下げた数多くの道具の中から、ゴミとかをつまむのに使うピンセットの親玉みたいな例の道具を手に取った。
「こいつでつまみあげて、ジッポーのオイルをかけて焼くのだ。その灰は鶴見川に流してやる」
ここで走って逃げるのはたやすいが、奴が思わぬ駿足の持ち主である可能性はゼロではない。凶器を持っているし危険だ。なによりホモと思われたままでは、今逃げてもまた狙われるかもしれない。俺は言った。
「いいか、落ちついてよく聞け。あんたは二つの間違いを犯している。第一に俺はホモではない。第二に、俺はホモではないし、なるべくホモに関わりたくないとは思っているが、ホモに偏見はない。何度となくホモに襲われかけて死ぬような恐怖を味わっているが、それでも全てのホモを憎んではいないぜ。ホモだって人間だからな、中にはとんでもない鬼畜もいるかもしれないが、全てのホモがチンポを切り落とす必要があるような邪悪なホモだとは限らないぜ。たまたま男が好きなだけで、善良なホモもいる。いや大多数は善良なホモだと思う。そんな善良なホモ達のチンポを切り落とす必要があるとは思えない。あんたは間違っている。殺人犯がたまたまホラー映画のファンだったから、全てのホラーファンは殺人者予備軍だと思う世間の奴らと同じだ。俺の言いたいことわかるか?」
「ホモの肩を持つつもりかこのホモ野郎!チンポを切り落としてやる!」
「あんた人の言うこと聞いてるか?」
話し合いで解決する余地はなさそうなので、走って逃げるか、そこらへんに落ちている角材か石を拾って対抗するか考えていたら、男は鋏を下ろして言った。
「まあ貴様の言うことにも一理ある。お前は自分がホモじゃないって言うんだな?じゃああれだ、チンポ見せろ」
「はあ?」
「俺はホモと戦うために何年もホモの研究をしてきたんだ。ホモかそうでないかはチンポを見ればわかる。さあ出せ。チンポ出して俺に見せろ」
「見ればわかるのか?出すのか?」
「ああそうだ見ればわかる。早く出せ。握ればもっとわかる。出して握らせろ。さあ早く」
「貴様もホモか!!」
俺は自分でも信じられないような早さで足元にあった石をひっ掴むと、男の側頭部に叩きつけた。男はもんどりうって倒れ込むと、「グギャアアアーッ!!」という悲鳴をあげた。転倒した拍子に両手に持っていた鋏の左右の切っ先が、両目に突き刺さったのだ。
俺はこの手の込んだホモが苦痛にのたうちまわるのを尻目に走って逃げた。