宇宙サウナ

これは人から聞いた話である。その時彼は深夜の六郷橋近辺を歩いていたら、どうもなんか数分間記憶を失ったような気がして、腕時計の時間が勝手に進んでいるので、これはもしやあれかと思ってふと空を見たら巨大な空飛ぶ円盤が浮かんでいた。その空飛ぶ円盤の底の部分に穴が開いて、そこから光とともに例のあれが出てきた。「宇宙人解剖フィルム」などでお馴染みの、例のあれだ。例のあれは声を出さずに、直接心の中に語りかけてきた。「このへんにサウナはないか?」と。彼は筋金入りのホモで大のサウナ愛好者だったので、宇宙にもホモはいるのか、自分は宇宙のホモを地球のハッテン場に案内した歴史的ファースト・コンタクトの生き証人になるに違いないと思って大喜びでその例のあれを行きつけのサウナに連れていった。サウナのドアを開けると、そこにはいつものように下半身にタオルすら着けずに男性自身をむき出しにした腹の出た毛むくじゃらの中年男性や、腹の出た毛むくじゃらではない中年男性や、鍛えた筋肉の上にほどよく脂肪がいきわたったむっちりとした体育会系の中年男性や、その他の中年男性がいて、値踏みするように例のあれの全身をなめまわすように見渡した。すると例のあれは急に怒り出して、「この知性を感じられない生き物どもは一体何だ。なぜ彼らは下半身を強調するようなポーズでソファーに座り、私の下半身を値踏みするような目で見るのだ」と声を出さずに直接心の中に語りかけてきた。例のあれが声を出さずに直接心の中に語りかけるには、宇宙ではサウナといえば知的な討論を戦わせる場だという。サウナの熱で頭に血を昇らせ、それを特殊な呼吸法で脳に巡らせることにより知性を倍増させ、通常よりはるかに知的な会話を楽しむことが可能なのだそうだ。その例のあれははるばる宇宙の彼方から地球人とサウナで知的な会話を楽しむためにやってきたのだと声を出さずに直接心の中に語りかけてきた。なるほど宇宙ではサウナといえばそれが常識かもしれないが、ここは地球なのでとりあえず地球では地球の流儀に従ってもらおうとサウナの男達は例のあれを押さえつけてそれが着用していた銀色の宇宙服を引き剥がして股間を見たら、そこにはチンポもケツの穴も何もなかった。例のあれが声を出さずに直接心の中に語りかけてくることによると、彼らは進化して食物を摂取することなく薬などで栄養分を補い、老廃物を体外に排出する必要がないので尿道もケツの穴も退化してなくなった、また子孫を作る場合もDNAから直接培養するため生殖器も必要なくなり退化して消失したとのことだった。例のあれがチンポもケツの穴も持たないことに怒ったサウナのホモ連中は、「このオカマ野郎!」と罵倒するとそれを袋叩きにして呑川(蒲田を流れる川)に放り込んだ。ひどいことをするものだ。