もやし暴力VX

不定期連載・第五回(で、よかったっけ?)
さて、カートと魔術師がいかなる事情で無人島にいたかということはわかったとして、ここでもう一つの疑問のほうに話を向けよう。もう一つの疑問、すなわち「その頃残りの二人はどうなっていたのか?」という点だ。残りの二人、ベンガリアンともやしことビジランテだ。
実は結論から言うと、二人ともカートとブルベイカーと同じガレー船にいたのである。四人の乗った船がデスメタル帝国の奴隷狩り船に拿捕された後、カートとブルベイカー、ベンガリアンはそれぞれ別の奴隷部屋に閉じ込められた。それからガレー船に移され、カートとブルベイカーはあきらめて素直にガレー船の漕ぎ手になったわけだが、その時ベンガリアンは遠い位置の漕ぎ手に割り振られたため、二人と顔をあわせることはなかった。ベンガリアンは、鎖につながれる時、「これは合法的に暴れられるチャンス!」と思って(なにが合法的なのかよくわからないが)大暴れして帝国の兵士を二〜三人海に投げ込んだりした。(その時カート達は、「ああ、あっちで誰か暴れてるなあ・・・元気があっていいなあ」くらいにしか思っていなかった)あまりにも暴れっぷりがすごいので、将軍はベンガリアンを奴隷にするのはあきらめ、帝国に連れて帰って帝国名物バーサーカー部隊のメンバーに推薦しようと思って、とりあえず船底の懲罰房に放り込んだ。帝国名物バーサーカー部隊とは、帝国でも特に凶暴な兵士のみで結成された殴り込み部隊で、戦局が不利な時などに投入されてひたすら暴れ回るのが役目だ。もしもベンガリアンがそこのメンバーになっていたならば、まさに天職であったはずだが、運の悪いことに将軍は色々忙しくて(新しく入った奴隷の一人が他の奴隷や帝国の兵士にまでも隙あらば男性器をさわったり男性器を押しつけてくるという苦情の処理とか)そのままベンガリアンのことを忘れていた。懲罰房に閉じ込められたままのベンガリアンは、それからネズミを食ったりして鋼のような意志でなんとか生き延びた。
一方のビジランテは、つかまえた奴隷を帝国の船に乗せる時に、セロリと間違えられて食料貯蔵庫に放り込まれた。それから野菜とか食いながらなんとか生き延びた。ずっと野菜と同じ部屋で過ごしたので精神が半ば野菜化して、極端に無口になった。
王国の戦艦の砲撃でガレー船が沈没した際、懲罰房の扉が壊れたので、ベンガリアンは幸いとばかり懲罰房を抜け出した。ろくなものを食っていなかったので、食い物の気配を頼りに、まず食料貯蔵庫に一直線に向かった。浸水とかしてたし、爆音とかしてたので、まもなく船が沈むなと直感したベンガリアンは、貯蔵庫で取急いで食い物をバリバリと食い荒らすと、手近にあった樽に食料をつめこんだ。その時、セロリと間違えてビジランテも一緒に樽に詰め込んだ。樽をロープで背中にくくりつけると、バリバリバリという音がして床が真っ二つに割れて大量に浸水してきたので、超人的な体力で水の流れに逆らって泳ぎ、船の外に出た。懲罰房にいた時、ひまだったので毎日筋トレと昔どっかで見たうろおぼえのカンフーの練習ばかりしていたのだ。おかげで日夜ガレー船の漕ぎ手をしていたカートと同じくらいの体力はついた。
それから樽とともに漂流して、中の野菜を食ったりサメを食ったりしていたのだが、ある時樽の中にどっかで見たような生き物がいるのに気付いた。
ベンガリアン「ああ?お前ビジランテじゃねえか?なんでこんなとこにいるんだ?」
ビジランテ「・・・」
ベンガリアン「あれかお前非常食か。本来の役目にもどったわけか。俺に食ってくれってか」
ビジランテ「ヒイィーッ!」
ベンガリアン「まあこんなもんはまだまだ非常時とはいえねえな。カートだってそう言うだろうな。食いもんもあるしな。そこらへんにウヨウヨしてる。お前腹へってないか?サメ食うか?」
ビジランテ「・・・」
ベンガリアン「まあ陸地に戻れるまでは広い大海原でお前とオレ二人きりってわけだ。色々あったがなかよくやろうぜ・・・」
こうしてカートと魔術師、ベンガリアンともやし、そしてホモは離ればなれになった。数奇な運命のいたずらにより、彼らはその後運命的な再会を果たすことになる。
続く