アメリカの友人

嘘日記
以前アメリカにいたころ、近所にあのバンバンビガロやザンディグを輩出したモンスター・ファクトリーがあるという噂を聞いて、探し出して見物いや見学に行くことにした。
現地に着いてみると、「モンスター・ファクトリー」という看板があって有刺鉄線で囲まれている区画があった。なんか悲鳴が聞こえたので中をのぞいてみると、柱にしばりつけた男の股間にバッテリーから伸びているコードの先を別の男が押しつけている光景があった。おれは悪いものを見た気がしたので引き返そうと思ったが、そこでコードを持っている男と目があった。
「君、何か用かね?」
「いや、別に用というわけでは。単なる通りすがりの者です。すぐ帰ります」
「そうか、君は入門志望か。入門したいんだろ?ああこれか。これは彼の希望でやっていることだ。誰にでもやるというわけではないから、心配しなくてもいい」
「いや入門というか、見ての通り貧弱な体なので入門などと大層なことは考えていません。ただレスリングのファンなもので、できたら後学のために見学でもさせていただければと」
レスリング?珍しい表現をするな。確かにある意味レスリングと共通する部分はあるが。それにこの世界に体は関係ないぞ。体よりは精神が重要だな。まあ、いい体をしているにこしたことはないが」
男は口ひげを撫でながら言った。上半身裸で、革パンに革のブーツを履いている。
「まあいい。見学したいというのなら大歓迎だ。ついて来たまえ」
おれはなにやら自分が重大な勘違いをしている気がしてきたが、見学したいと言って見学させてやると言われたのに断るのも無礼なので、男についていった。
「あの、彼はほっといていいんですか?」
柱にしばりつけられて口から泡を吹いている男を見ておれは言った。
「ああ、それもプレイの一環になるからいいんだ。一種の放置プレイってやつだ」
「彼の希望で股間に電流を流していると言いましたが、いったいなぜそんな希望を?電流デスマッチの練習ですか?」
「デスマッチ?珍しい表現を使うな。まあある意味デスマッチみたいなもんだが。我々の人生は。あれは男根に電流で刺激を与えることによって、男根の膨張率が高まるんではないかと考えた彼による実験だ。私はそんなはずないからやめろって言ったんだが。単に男根に電流を流してみたかっただけかもしれない」
男根の膨張率?そんなのがプロレスに関係あるのか?
疑問を感じながらもおれは男についていった。でかいプレハブみたいな建物があり、ドアを開けると中は板張りでジムのようになっていた。中には数人の上半身裸の男達がいた。ようやくプロレス学校らしくなってきた。と思ったのも男達がやっていることを見るまでの一瞬だった。
ある男はハンマーで自分の男根を叩いていた。ある男は火にかかった鍋の中の焼けた砂に、フン!フン!と言いながら自分の男根で突きを入れていた。ある男は壁に手枷と足枷でつながれ、その男根にしばりつけられたロープを別の男が手動のウインチで巻取っていた。「ヘヘヘ・・・どんどん伸びやがる・・・」と言いながら。もっとひどいのもいたが文章では表現しきれない。ただ、おれは人間の金玉の袋があんなに伸びるものだということを生まれて初めて知った。
「何を彼らはやっているんですか?急所攻撃に対する抵抗力をつける特訓ですか?」
「急所攻撃?誰も急所なんか攻撃しやしないぞ。むしろ、急所で攻撃するというべきか。相手のケツの穴をな・・・」
「すいませんがここはレスリング・スクールのモンスター・ファクトリーではないんですか?これはプロレスの練習ではないんですか?」
「モンスター・ファクトリー?ここはモンスター・ファクトリーではないぞ。一流のハードゲイを育成する、ハードゲイ・モンスター・ファクトリーだ」
壁にかかった旗を見ると、確かにモンスター・ファクトリーのロゴの上に、赤い文字で「ハードゲイ」と書かれていた。ハードゲイの部分だけ色が違うので、見落としていたのだ。
「すいません間違えました。帰ります」
「まあそう言うな。せっかく来たんだから、サウナにでも入っていったらどうだ?」
「遠慮します」
「ハッハッハッ!勘違いするな!我々は見境なしの性倒錯者とは違う。男らしさを追求するハードゲイなのだ。ノンケに手を出したりはしない。男と男が魂で語るにはサウナが一番だ。遠慮せずに入っていけ」
ふと気付くと周囲を男達に囲まれていた。男達は口々にサウナはいいぞ、入っていけ、入っていけーとおれにサウナに入るのを強要する。逆に断ったほうが何をされるかわからないので、おれは渋々サウナに入ることを了承した。
サウナでは特に何もされなかった。腰にタオルすら巻いていない、素っ裸の屈強な男達に囲まれてサウナに入る経験というのは、気持ちの言い体験とはいえなかったが。サウナから出たらメシを食っていけと言われた。多分断れないので一緒にメシを食った。ホットドッグだった。この形たまんねえぜとか言いながらホットドッグにむしゃぶりつく上半身裸の男達と共にホットドッグを食う気分はなんとも表現しづらかった。食い終わると手みやげまで渡されて(中身は裸の男の写真のカレンダーとトランプだった。捨てるのも申し訳ないんでまだ家のどこかにある)みんなで見送ってくれた。みんなハートのいい奴なのはわかったし、ホットドッグもうまかったが、二度と再びそこに行こうとは思わなかった。